運に見放された男が腹いせに道連れしていく話
ある土曜日
いつも通りにバイトを終え、今日は何をしようかと考える。今日は仕事量がいつもの倍くらいあった。そのうえ新人の支援もしなくてはならず、多忙に多忙を重ねた。その分、自分の限界を超えたような気がした。今日くらいは家で酒を飲んでもバチは当たらないだろうとか考えていたが、出勤前の自分が
「サイファすっぞ」
と言ってたのを思い出した。過去の自分に従うため、その日大会をやっているであろうお店に自転車を飛ばした。
道中、ふと気になりショップ大戦会のページを開いた。そのお店は不定期で大会が開かれておらず無駄足になることがあったからだ。そして気づいた。
「大戦会がない」
その時点でお店の最寄り駅にはついており、心が折れそうになったが、最近各地で店舗予選が行われていることに気付いたため、藁にも縋る思いで店舗予選のページを開いた。
「本日は店舗予選です」
九死に一生を得たと同時に、ピリピリした雰囲気でやらねばいけないのかと少し残念がった。
なにせ今日持っているのは新型シルク。まだ実戦ではほとんど使用していないのである。
「はぁ~ どーせアイクとかマルスとかがわんさかいるんだろ知ってる知ってる」
そう思いながら乗ってきた愛車を駐輪場に止める。ここに来るたびに100円玉が財布から消えるが電車賃より安いので許す。店に入り、受付を済ませ、既にいた知り合いに挨拶をして開始を待った。
1戦目 カムイ男
アイクより戦いたくないキャラクターだ。序盤から猛攻を仕掛け、絆に送ったカードを回収しつつ全体をバンプアップしてくる。とはいえ乗ってしまえばまだ何とかなるかもといった具合であった。
引き直しを終えて一言
「シルク・・・どこ?」
手札にシルクがない。これだけで死を覚悟した。
結局手札にシルクが来たのは6ターン目くらいだった。しかし、壁要員のカムイちゃんを3枚引くことができ、大きく時間を稼げたこともあり時間ぎりぎりで勝利。
2戦目 カムイ男
地獄が再びやってきた。それでも直前と同じように乗れればやっていけると信じて引き直しを行った。シルクはきた。シルクは。
1t目 絆を置くだけでターンを終え、攻撃を受ける。ここまでは予定通り。
2t目 1cのレオンを出す。
3t目 シルクをCC 絆に置いたのはシルク
賢明な方には1t目の分を読む前にお気づきいただけたとは思うが、手札にシルク以外の赤がなかったのである。おまけにレオンを壁にするためにレオンを絆に置く痛恨のミスもあり、カムイくんの連なる思いに完敗。権利船への挑戦は終わった。
3戦目 エルトシャン
事件は起きた。いつものように引き直しを行う。当然シルクはない。それでも先攻は取れていたため、一縷の望みをかけて試合に臨んだ。
案の定シルクは来ない。そして相手は3cエルトシャンを絆に置いた。3cのエルトシャンは絆に置いた際、手札のカードと退避のエルトシャンを交換できる。相手は5cエルトシャンを回収しない。そこで相手が5cエルトシャンを持っていることが確定した。諦めていた自分のて心に、悪魔が囁いた。
「相手も事故らせようぜ」
その後の行動に迷いはなかった。サフィで絆を伸ばし、4ターン目にレオンを着地。ノータイムで絆をすべて裏返し、神器ブリュンヒルデを実行。場が凍り、一瞬の緊張が走る。対戦相手が手札をシャッフルし、どれを退避に送るか質問してきた。呼びかけに答え、相手側に近いカードから数えてn番目と答えた。
相手が選択したカードを公開した時、奇跡は起こった。
5cエルトシャン2枚をすっぱ抜いた
思わず「よっしゃ!」と叫んだ。相手は「嘘だろ・・・」と落胆の表情。これは流れが来てる。勝てる。そう思わせてくれる展開になった。
思っただけだった。
そりゃそうよね。相手はメインに乗れてないとはいえ戦闘力70。一方こちらはわずか20。エマちゃんがエルトシャンを捲っても通るレベル。結局ひたすら殴られ続けて敗北。
しかし、これはレオンの闇の深さを周囲に理解させるには十分だった。今日ほどレオンへの信頼度が上がった日はない。(同時にここまでシルクへの信頼度が下がった日もない。)レオンの魔導書は木をはやすだけではなく、相手を絶望の淵へ陥れることができる恐るべき魔導書なのだ。